突然だが俺の勤めている会社が売却された。
あまり詳しくは書けないが、親会社は大企業で近年収益が悪化。事業を整理して効率化を図っていた。その中に俺の会社も含まれて、俺の会社を売り飛ばして得た資金で本業に注力するということらしい。
俺が採用された2019年と翌年から始まったコロナとそれに伴うサプライチェーンの混乱、ウクライナ侵攻で経済的な環境は激変した。
労働者が経営者目線になっても仕方がないのだけど、俺はこの会社売却に納得した。
親会社からくる管理職はメリットよりデメリットを嫌い積極的な営業は何もしなかった。なので、赤字ではないものの売り上げは右肩下がりだったし、そこから脱却できる能力は管理職にも俺たち子会社の社員にも無いように思えた。
右肩下がりの会社の業績を聞くたびに、「俺たち10年後はグループ会社の警備会社かコールセンターでバイトするしかないんちゃう?」と冗談を言っていた。
でも、今までの利益が内部留保も30億ぐらいはあったそうだし、ベテラン社員も「あと10年は私たちを雇ってくれるでしょう。」なんてのんびり言っていた。
その中での売却だったので戦慄が走った。
半沢直樹のドラマのように見えた会社売却の発表
その日会社のグループウェアに社長から午後3時に発表があるとの掲示が上がった。
俺たちは何があるんやろう?と想像しあった。親会社から来た管理職はその日よく席を外していた。
10時、11時、12時と時間が進むにつれ、みんな緊張を感じるようになった。それは嫌な予感がし始めたからだと思う。
通常、全体への発表は朝礼に行われるし、これは変だとみんな不安になってきたのだ。
15時。朝から居なかった社長が帰ってきてみんなの前にたった。
「突然ですが、わが社は●会社に株式譲渡することになり、今後は●会社が親会社となります。」
みんなの血の気が引くのを感じた。俺も終わったと感じた。
俺は43歳。60歳定年と65歳までの延長雇用は確実だと思っていた。それが今崩れた。
社長の話は続く。
「現在わが社でやっている業務は2年をかけて●会社に引き継ぎます。そして、その後は一部を残して、清算することになります。」
つまり、俺たちは2年をかけて会社を畳み、その後転籍することになった。
言わば2年間は敗戦処理に従事することなる。
「また、わが社の▲事業部はグループ会社に譲渡して、引き続きグループ会社として残っていただきます。」
ここでも衝撃が走った。
ぬるま湯体質のグループ会社に残れるならみんな残りたかったからだ。
その後は新親会社の●会社の挨拶などあったが、みんな頭に入っていなかっただろう。
三者三様。会社がバラバラになった日
その日から会社は3つに分かれた。
親会社からの出向者、グループ会社に転籍できる者、新親会社に売却された者。
うちの事業部でも一人だけグループ会社に転籍することになったが、彼は明らかに喜んでいたし、売却された俺たちに対して優越感を感じていることは明らかだった。
その後はお昼時に笑い声を聞くことは少なくなった。
俺は悲観した社員が変な気を起こさないか心配だった。
俺も数カ月経った今も母にはこのことを未だに言っていない。それぐらい今の親会社は名前が知られている大企業だし、新親会社とはあまりにも格が違う。
同僚の女はその日から明らかに情緒が不安定になり、それまで愚痴はみんなに聞かれる場所では言わなかったのに、今の親会社の社員が聞こえる場所でも平気で言うようになった。
また、大人しい社員ですら朝礼で会社売却を嘆き、今は何も言えませんと全員の前で恨み言を言うありさま。
今はさすがに落ち着いてきたが会社売却組の俺たちは不安を抱えたまま。
いつ転籍するのか、どの部署に行くのか、どのような待遇なのかはまだわからない。
未だに決まっていないらしい。
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